裁量労働制は本当に「自由な働き方」なのか? 是正勧告事例から見る制度の問題点

裁量労働制は本来どんな制度?

裁量労働制は、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決められた「みなし労働時間」を働いたものとして扱う制度です。

本来は、研究職やデザイナーなど、仕事の進め方や時間配分を本人の判断に委ねることが適切な業務を対象としています。効率よく仕事を終えれば早く帰ることもでき、逆に時間がかかっても働き方を自分で決められることが制度の前提です。

しかし、その前提が崩れると、裁量労働制は長時間労働を見えにくくする制度にもなり得ます。

R社で起きた是正勧告

2026年、大手IT企業グループのVTuber事業を手掛けるR社に対し、労働基準監督署が是正勧告を行ったことが報じられました。

報道によると、グッズの企画・制作・販売を担当していた社員に専門業務型裁量労働制が適用されていましたが、労働基準監督署はその適用が不適切だったと判断しました。

問題となったのは、制度そのものではなく、「制度を適用できる条件を満たしていたのか」という点です。

実際には裁量がほとんどなかった

担当していたのはVTuberグッズの企画や販売に関する業務でした。

しかし、商品の発売時期やイベント日程、制作スケジュール、人員配置などは本人ではなく会社側や他部署によって決められていました。

新しいタレントがデビューすれば業務量は増え、人手不足の中でも担当者は対応しなければなりません。

増員を希望しても認められず、業務量だけが増え続ける状況だったと報じられています。

つまり、仕事の進め方を自由に決められる状態ではなく、「裁量労働制」という名称とは異なる実態だったことが問題視されました。

長時間労働でも残業時間はゼロ

繁忙期には月の労働時間が260時間を超えたとされています。

中には朝から働き始め、そのまま会社で仮眠を取り、翌日も勤務を続けるような日もありました。

ある日は約19時間半勤務していたにもかかわらず、みなし労働時間は8時間だったため、法律上の残業時間として扱われませんでした。

その結果、実際には長時間働いていても、残業時間としてカウントされず、追加の残業代も発生しない状態になっていたとされています。

こうした実態から、裁量労働制は「残業サブスク」「定額働かせ放題」と批判されることがあります。

36協定による上限規制も機能しにくい

通常であれば、残業時間には36協定による上限があります。

しかし、裁量労働制では実際の労働時間ではなく、みなし労働時間が基準になります。

そのため、実際には毎日深夜まで働いていても、制度上は残業時間が発生していないように見えるケースがあります。

今回報じられた事例でも、この仕組みによって長時間労働が表面化しにくくなっていました。

リモートワークで仕事と私生活の境界が曖昧に

問題は勤務時間だけではありませんでした。

報道によると、退勤後や休日であってもチャットツールに業務連絡が届き、常に対応できる状態が求められていたとされています。

形式上は勤務を終えていても、スマートフォンを手放せず、通知を気にし続ける生活になっていたといいます。

リモートワークと裁量労働制が組み合わさることで、「いつでも仕事ができる」環境が、「いつでも仕事をしなければならない」状態へ変わってしまう危険性もあります。

「同意」は本当に自由だったのか

2024年から、専門業務型裁量労働制では本人の個別同意が義務化されました。

しかし、この事例では昇格のタイミングで裁量労働制への同意を求められ、同意しなかった場合の具体的な待遇や配置について十分な説明がなかったと報じられています。

制度上は同意を得ていても、実際には選択肢がほとんどない状態であれば、本当に自由な意思決定だったのかという疑問が残ります。

裁量労働制が違法になるケース

今回の事例から見えてくるのは、裁量労働制そのものが違法なのではなく、運用方法に問題がある場合です。

例えば、次のようなケースでは適法性が問われる可能性があります。

  • 対象業務ではない仕事に裁量労働制を適用する
  • 実際には仕事の進め方を自由に決められない
  • 長時間労働が常態化している
  • 同意手続きが形式的になっている
  • 健康管理が十分に行われていない

制度は法律で認められていても、運用を誤れば労働基準法違反につながる可能性があります。

まとめ

裁量労働制は、本来であれば柔軟な働き方を実現するための制度です。

しかし、仕事の進め方を自分で決められないにもかかわらず制度を適用したり、長時間労働の実態を見えにくくしたりすると、本来の目的とは大きくかけ離れてしまいます。

今回報じられたA社の事例は、「裁量労働制だから問題なのではなく、制度の趣旨に反した運用が行われると深刻な労務問題につながる」ということを示した事例と言えるでしょう。

裁量労働制で働いている人や導入を検討している企業は、「本当に裁量がある仕事なのか」「制度が適切に運用されているか」を改めて確認することが重要です。